脳は有機スーパーコンピュータ

「脳とコンピュータとワーキングメモリ」の項でも述べたように、脳はよくコンピュータに例えられます。実際、コンピュータ(OSなどのソフトウェアも含む)は脳の機能を参考に作られている部分も少なくありません。
近い将来、人工知能(AI)が人間の脳を超える日(Singularity 技術的特異点)が来るだろうというSFのような予想も、ここ数年の進歩でかなり現実味を帯びてきました。

ただ脳の本当の力は、私たちの実感をはるかに超えたレベルにあります。私たちは自分自身の脳の素晴らしさを分かっていません。それゆえ使いこなせていないのです。
脳はじつにたくさんの仕事を同時並行的にこなしています。呼吸や消化吸収など生命維持のための指示から、表情をつくったり、食べ物を噛んだり、歩いたり、掴んだり…掴む物に応じて指の開き方や強さを絶妙にコントロールしています。
会話をしている時、脳は相手の言葉を理解するだけではなく、その抑揚や表情から細かな感情の揺れ動きを読み取っています。普通、話し言葉は、文法的にはかなり崩れたものになりがちですが、それでもほとんどの人はその意味を全体として理解し、瞬時にそれに対応した言葉や表情、動作を返します。
目に入ってくるのは可視光線という電磁波つまり光ですが、それを脳は電気信号や化学信号に変換しながら意味のある映像として再構成します。そこに映し出されたのが人の顔であれば、過去の記憶と照合しつつ知人かどうかを調べ上げ、挨拶すべきか、気づかないふりをするのか、あるいは逃げるのか…必要な判断を行い、行動に移すために神経系統に指令を出し身体を動かします。

その時も、体内ではさっき食べたものを消化し、エネルギー源となるもの(糖分)、体を作るもの(タンパク質)、ビタミン類やミネラル類、植物栄養素など、化学分析を行いつつ分類、細かな仕分けを行っています。

さらには目や耳などの五感センサーを通じて、体の内と外のあらゆる情報をモニタリングしつつ、急に雨が降って来たりボールが飛んで来たりなど、何か異常があればすぐに対処できるように準備を怠りません。
人間にとっては、小さな子供でも普通にできることですが、これをコンピュータにやらせようとすると、おそらく最高性能のスーパーコンピュータとAIを駆使しても、かなり難しいことでしょう。

コンピュータは決まった動作を続けるのは得意ですが、答えの定まっていない問題を解くことや、決められていないこと、想定外のことが起こったときの対処は、まだまだ人間にはかないません。
人間の脳はスパコンをも遥かに凌ぐ「超絶高性能の有機スーパーコンピュータ」であると、私たちは考えています。「有機」という言葉には、単なる無機的な機械ではないという意味が込められています。

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