「人は食べたものでできている」――食生活の重要性について深く考えさせられる言葉です。
私たちは、そこにもう一つとても大切な要素を追加したいと考えています。それは「人は食べたものと記憶でできている」ということ。
知識や経験の蓄積はもちろん、人間関係、思い出、日常のやりとり、思考、判断、行動など生活のすべてに記憶は深く関わっています。朝、目覚めたとき、自分が自分であるという奇跡に何事もなかったようになじめるのも、それまでの記憶を引き継いでいるからです。
私たちは今、スマホ等のIT機器を通じて、巨大な情報システムにいつでもどこでもアクセスできる時代に生きています。それはあたかも膨大な数の本や資料、映像作品等を常に持ち歩いているようなもの。
それゆえ細かなことをいちいち覚えておかなくても困らないと考える人もいるでしょう。
しかしいかなる情報であっても、それを有効活用するためには、いったん頭の中に取り込んで記憶する必要があります。どんなに栄養のあるものでも咀嚼し飲み込まなければ身にならないのと同じです。
むしろ大量の情報が容易に入手できる時代だからこそ、それを思考のための素材として脳内に保管する力、つまり記憶力の重要性が高まってきていると考えるべきではないでしょうか。
記憶力は、ただ知識を蓄積しておくためのものではありません。思考力や判断力、行動力など、脳の力全般(脳力)を根底で支える基本的な要素です。
それは、記憶力選手権で前人未踏の6回連続チャンピオンとなり、日本人で初めて「世界記憶力グランドマスター」の称号を獲得した池田義博(当研究所所長)が、訓練を続けるなかで深く実感したことでもあります。(⇒所長メッセージ)
記憶力は科学的なトレーニングによって驚くほど向上させることができます。
もちろん遺伝による脳力差は脳科学でも認められています。しかしその差は、「脳の使い方」をマスターすることで容易に埋められます。なぜならば、ほとんどの人がその本来の脳力を使いこなせていない(ゆえに発揮できていない)からです。頭の良し悪し、能力のあるなしは、「脳力の差」というより、「脳の使い方の差」にほかなりません。その事実は、これまで記憶法トレーニングを受けた多くの人が実感していることです。